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2016年11月30日、当センターの研究交流会において、出雲中央図書館の蒲生倫子氏が、「麗しの女流俳人松井しげ女とその作品」と題して、新発見資料について報告を行いました。

 

「松井しげ女」は、江戸後期に活躍した出雲の美しき女流俳人として、伝説の人物のように語り継がれ、郷土研究者たちを魅了し続けてきました。

1904年(明治37年)の俳誌『草笛』に松江出身の俳人・祝羽風(いわい・うふう)が、江戸後期、杵築(大社)の松井家の妻女で俳諧をよくした「しげ」という人物がおり、また大変な美貌の持ち主としても知られていたと紹介。先年見た「或書」に拠るとして、彼女の「栞草(しおりぐさ)」なる句集の序文と22句の抜粋を掲げました。これにいち早く同誌上で、やはり松江出身の野津嘲水(のつ・ちょうすい)が反応し、研究の必要があると強調、以降昭和時代に入っても地元研究者を中心に、しげの伝とその著「栞草」の探求が続けられましたが、桑原視草『出雲俳壇の人々』(1981年)では、松井家を訪ねて調査したものの「栞草」は伝存していなかった、この書が発見されることを強く望むと述べ、以降全くの幻の書となっていました。

そもそも祝羽風が拠ったという「或書」とは何かという点も不明なままでした。そして、「栞草」なる句集の存在についても全く手掛かりのないままとなっていました。それが、出雲市立海辺の多伎図書館の受贈資料の中に含まれていることを、この度蒲生氏が発見し、報告に至りました。

今回の発見されたのは、しげの自筆稿本と見られるものです。まず書名が、「栞草」ではなく、「槃草(たらいぐさ)」であること、祝羽風が紹介した序文とはやや字句の異同のある序文があること、正月から12月まで月ごとに句を収録し全448句であること、句には10種類の記号が付されていること(何らかの分類を示すものと思われるが詳細未詳)、余白に推敲や書き入れがあることなどが判明しました。

しげが松江藩家老の三谷権太夫の使者と堂々渡り合ったという逸話の中に登場する句も、この『槃草』の中に見つかりました。生活に根ざした句が多く、また雉なら雉、初雪なら初雪といった、ある対象を様々な角度から詠むことを繰り返し試みている様も見て取れます。

しげは若い頃、大社の広瀬百羅(ひろせ・びゃくら)に俳諧を学んだと伝えられており、今回の発見を端緒として彼女の周辺の状況の解明が進めば、江戸後期出雲の人々の文芸活動の実態がより明確になってくることも期待できます。

(田中)

次回の山陰研究交流会について

第27回山陰研究交流会は、2017年1月25日(水) 16時15分開催です。

「三江線の存続・再生:その意義と可能性」をテーマに、関 耕平(島根大学法文学部)が発表を行います。

参加無料・申込不要です。どうぞお気軽にご参加下さい。

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