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2014年11月15日、手錢記念館(出雲市大社町)において、企画展示「江戸力 手錢家蔵書から見る出雲の文芸」と関連する連続講座の第2回が開かれ、芦田耕一先生(島根大学名誉教授)に、「江戸時代末期の大社歌壇」と題して講演いただきました。
 芦田先生は、出雲国の和歌文学に関する長年のご研究に基づき、以下のようなお話をされ、江戸時代の末、大社の地に歌壇が存在し、優れた歌人が輩出し、極めて盛んな和歌活動が行われていたことに、改めて注目すべきだとの見解を述べられました。

 まず、江戸時代末の大社歌壇を考える際に重要なことが三点あるとされます。
 第一は、出雲が和歌発祥の地とされること。これは、『古今和歌集』の仮名序に、紀貫之が、素戔嗚尊が八岐大蛇を退治して稲田姫と結婚する際に詠んだ「八雲立つ出雲八重垣妻ごめに八重垣つくるその八重垣を」という歌から和歌の歴史は始まった、と述べていることによります。
 第二は、風土記の唯一の完本として伝存する『出雲国風土記』を有すること。
 第三は、杵築大社(出雲大社)が存在することです。

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 江戸時代出雲地方の和歌の歴史を考えるには、まず釣月(ちょうげつ。1659-1729)に注目する必要があります。釣月は江戸生まれで、京都の二条家流に交わり、「出雲国は八雲神詠(先に掲げた素戔嗚尊の歌)の地であるのに、歌道が行われていないのを残念に思って」、宝永(1704-1709)頃、当地へ来て、常悦(10月13日の久保田啓一先生の講演の紹介ブログ参照)を指導し、益田の柿本神社や出雲大社に和歌を奉納するなどして、江戸時代中期頃出雲で和歌活動が盛んに行われる基盤を作りました。

 さて江戸後期に入って出雲歌壇に展開が見られます。そこで重要な役割を果たしたのは、千家俊信(せんげとしざね。1764-1831)です。俊信は出雲大社の別当を務め、本居宣長に国学を学びました。出雲国に宣長の学問(古学)をもたらし、古典文学や『出雲国風土記』などを研究しつつ、多くの優れた門人を育てており、幕末の出雲歌壇隆盛の基礎を築いた人物と評価することができます。

 千家尊孫(せんげたかひこ。1796-1873)は俊信の門人で、それまで出雲に定着していた二条家流から新風へと展開させようと努力したと伝えられています。尊孫自身、全国規模の歌集に多く入集する優れた歌人ですが、特に、出雲歌人の歌のみを集めた『類題八雲集』(1842)を刊行したことは重要な業績です。また「鶴山社中」と称する歌人結社を主宰し、詠歌活動とともに出版事業も手がけ、出雲歌壇を活発化させました。

 富永芳久(とみながよしひさ。1813-1880)は、やはり千家俊信の門人で、また和歌山に赴いて本居内遠に学びました。芳久は出雲の地名に関心が深く、『出雲風土記仮字書』や『出雲国名所集』などを出版しています。また1856年の『丙辰出雲国三十六歌仙』以降3年連続して出雲歌人の歌集を編纂し出版しており、歌壇の隆盛に大いに貢献しました。

 千家尊澄(せんげたかずみ。1810-1878)は尊孫の嫡男で、やはり千家俊信に学びました。詠歌のみならず、古典文学風の典雅な和文を作ることにも努め、『松壺文集』(まつつぼぶんしゅう)を刊行しています。その中には、「歌まとゐ」(歌会)を大社の文人たちと催した記事も見え、当時の歌壇の活動の実態を伝えています。

 以上のように、出雲国には当初釣月によって二条家流がもたらされて定着し、のちに千家俊信の活動を機に歌風の展開を見せつつ、和歌活動そのものが活発化し、幕末頃には歌壇と称すべきものが成立していたことがうかがえます。

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 前回の久保田先生のお話に今回の芦田先生のお話を重ねて考えることで、江戸中期から後期にかけての出雲の地における和歌活動のありようが、具体的に理解できます。

 講演の後、手錢記念館展示室にて、上に掲げた歌人たちが出版した書の実物を前に、芦田先生によるギャラリートークが行われ、手錢家に豊富に残る資料によって当時のこの地方の歌壇の実態をうかがい知れることを、改めて認識しました。

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講演される芦田耕一先生

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江戸時代末の大社歌人たちが出版した資料(現在開催中の展示より)



次回の連続講座について


 連続講座の第3回は12月13日、伊藤善隆先生「俳諧史の中の出雲・大社・手錢家」(会場は手錢記念館)、シンポジウム「手錢家蔵書から見る出雲の文芸」は、12月14日、島根県立古代出雲歴史博物館において開催します。
 なお企画展示「江戸力 手錢家蔵書から見る出雲の文芸」は現在開催中です(12月21日まで)。
 詳細は手錢記念館ホームページをご参照下さい。みなさまのご来場をお待ちしています。

(文責・田中則雄)





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